備長炭×漆のしごと   |   桐本 泰一

 輪島塗産地は、考古学の研究が進めば進むほど、周辺から出土される漆器を調べることにより、室町時代以前から漆を塗り重ねる技法を駆使した椀などが発見されています。
能登・穴水町在住の漆考古学の権威、四柳嘉章氏の研究から、珪藻土をつかった漆器が江戸半ばから約200年間さかのぼって確認されたとのことです。今後、漆の考古学について研究が進めば、まだまだ歴史をさかのぼることになりそうです。

輪島市内から産出される珪藻土を焼成粉末した「輪島地の粉」の特性をもう一度検討して、表面硬度が高い漆器を考えたのは私です。
下地職人さんの小林栄一さんと一緒に3年かけて、安定した塗り方を研究しました。
現在は、小林栄一さんと、桐本工房の漆塗り職人さん4名、協力工房職人1名のあわせて6名にこの「makiji」を手がけてもらっています。

さて、備長炭と漆についてです。
これまでも、漆作業の中で、高蒔絵(盛り上げる)については、漆と炭粉を混ぜて盛り上げるのに使っています。もっと高級なものになると、漆と銀を混ぜて盛り上げていますね。
ですから、最初備長炭微粒粉末と漆の製品はできないかというお話しを伺ったとき、備長炭の「微粒子」だし、漆との相性も良いから、桐本独自に考えた「makiji(蒔地)」と同じような作業で完成できるのではないかと考えましたが、これが甘かった・・・。
備長炭は、輪島地の粉よりもさらに超微粒子で、しかも軽い。漆を塗って、備長炭を「蒔く」のですが、粒子が舞い立つし、職人さんのマスクの隙間から、どんどん入り込むし、苦しくなるし……。大変な事が分かりました。

試行錯誤を繰り返して、ようやくできたのが、備長炭漆楕円箸です。
輪島地の粉との「makiji(蒔地)」よりも、「やさしい」「艶が細かい」「持つと柔らかい」ですね。

楕円の形状を造形するのは、丸カンナを3種類駆使して職人さんが削るのです。先は丸い形状ですから、木地製作を機械化出来なかったようですね。以前、石川県工業試験場のトライアル事業にて、この楕円形の箸が、人間工学的に一番持ちやすいという結果が出ています。

備長炭と漆の組み合わせという取り組みをさせていただき、大変刺激になっています。今後も連携を考えていきたいと思っております。

桐本 泰一(きりもと たいいち)
輪島キリモト・桐本木工所代表。輪島高校、筑波大学、滋賀県立大学、金沢美術工芸大学などの非常勤講師も勤める。
江戸末期から明治時代にかけて輪島漆器を製造販売し、昭和初期に漆器木地屋を創業した桐本木工所三代目。八年前に輪島キリモトを創設し、木地から漆塗りまでをこなす一貫生産を行う。
暮らしの中で当たり前に丈夫で長持ちし、傷が付いても塗り直して使い続けることのできる漆の器、小物、家具などの創作をはじめ、建築内装材をも手がけている。
輪島キリモト・桐本木工所:http://www.kirimoto.net/